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『ニューヨーク便り』 No.13: 2001/10/23

晩秋のニューヨーク

2週間ほどの日本帰国休暇を終え、マンハッタンに戻る。日本のニュースでは炭疽菌騒ぎが大きく報道されているが、こちらではそう物々しさはない。テレビ局等、実際に炭疽菌入りの郵便物が届いたところ辺りが大変なのだろう。街はテロ以来、とても静かだ。人々の顔は寂しげで、今後の動向への不安からかかつての活気はなくなっている。またマンハッタンへの車での進入が規制されていることがあり、車の台数が少なくなっている。クィーンズ・ボロ橋より南は平日6AMから10AMまで1人しか乗っていない車はマンハッタンに侵入できない。タクシーや商業車は1人乗車でも認められているが、通勤の1人乗車はこの時間帯はマンハッタンには59ストリートのクィーンズ・ボロ橋以北の橋しか利用できない。

私が住むアッパーウエストサイドは平穏だ。観光の仕事が全くなくなり、生活圏がアパートの近所だけとなっているので、騒ぎはテレビ等のニュースでしか伝わらない。私自身には混乱はない。とはいっても、炭疽菌の感染者が増え、その急死が伝えられ、炭疽菌がテロ用に精巧に作られているという事実が報道され始めると、ブローのようにじわじわとこたえてくる。何故私はここにいなくてはいけないのだろうかと・・・。帰る場所がある私には逃げるところもないニューヨーカーの心の底の気持ちを絶対に感じることはできない。

封鎖されていたテロの現場近くが解放され始めているので、状況を見に行く。最南端のバッテリー公園のサウスフェリー駅まで続いた地下鉄1番線はワールド・トレード・センターのやや北のチャンバー・ストリート駅で終点となる。列車から降りると、鉄の溶けたような異様な臭いがする。ホームの中まで入り込んでいるのだ。地上に上がると鼻は臭いに慣れたこともあり、常に臭いを感じるということはないが、それでもたまに鼻に臭いがつく。チャンバー・ストリートの南からトリニティー教会の北までとブロードウエイから西の一角はワールド・トレード・センターの瓦礫撤去と遺体発見のため、一般人は入ることは出来ない。現場の様子を見ようとする見物人の進入を阻止するため、出入りの関係者の整理のため、警官がこの区域の道路に立っている。緊張感はまったくない。見物人が現場の写真を撮る。瓦礫の中からは未だに煙が立ち上がる。その中に瓦礫撤去の大型クレーンが数本並ぶ。中心地には5階くらいの高さの1部の鉄骨が黒ずんで立っているのが確認される。まるでローマの遺跡の跡のようだ。現場が見えやすい場所は見物人のため、通行が滞る。近くのオフィスビルの壁には行方不明者の写真、世界平和の願い等が書かれたビラが貼られている。人混みの中を歩きながら時折目に埃が入る。この周辺の大気中にはあきらかに破壊されたワールド・トレード・センターから生じた埃が漂っている。気分が悪くなるほどだ。

見物人が途切れたところでは路上の販売許可を持たない者がアメリカ国旗のバッチ、ワールド・トレード・センターの絵はがき等をアタッシュケースに入れ、販売している。トリニティー教会まで下ると現場が見えづらくなるので、人はまばらになる。ウォール街のビジネスは再開されたと聞いていたが、ほとんどの店は閉まっている。開いている店でも客はほとんどいない。金曜日の午後というのに人気がない。かつてはビジネスマンと観光客であふれかえっていたのに・・・。ウォール街の好景気のシンボル的な雄牛の彫刻の上に観光客が乗り、記念写真を撮っている。バッテリー公園は紅葉された緑に覆われ、秋のやさしい日差しが差し込む。芝の上を鳩とともにリスが無邪気に動き回る。食べ物を探しているのだ。訪れ来る寒い冬を越えるために・・・。

 

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